専門分野: 糖尿
Q: 幹細胞を利用した治療
例えば、インスリンが全く分泌されない�型糖尿病で膵島細胞移植をするの場合、ドナーから提供された膵臓からインスリンを分泌する膵島細胞を取り出して患者に注射し、移植するようですが、ドナー不足や拒絶反応などの難題があると聞いております。 それを幹細胞の種類にもよるでしょうが、幹細胞移植にすると難題は解決するのでしょうか。 また、胎児細胞から採った幹細胞を移植する場合、拒絶反応が少ないと聞いておりますが、免疫抑制剤を投与する必要はないのでしょうか。ご回答をよろしくお願い申し上げます。
掲載日: 2007.5.30
A:
膵島移植に関連したご質問が二つありますので、それぞれに回答致します。 まず、「幹細胞移植にすると(ドナー不足や拒絶反応の)難題は解決するのでしょうか。」というご質問にお答えします。 残念ながら、「膵臓の幹細胞」は未だ発見されていません。少なくともマウスやラットなど実験動物では膵島が再生することは確認されていますが、その元になる細胞が何であるかについては幾つかの説があって確定していません。膵臓の幹細胞の候補としては、1. 元からあった膵島細胞が分裂・増殖する。2. 膵管の上皮細胞が分化・増殖して新しい膵島が形成される。3. 消化酵素を分泌している腺房細胞が分化転換して膵島細胞になる。4. 膵臓内に未分化な幹細胞が存在していて、これが増殖・分化する。の4つの説が考えられます。実際に、膵管細胞を体外で培養・増殖させて膵島細胞に分化させ、これを移植に使おうという研究も行われていますが、未だ十分確立された方法にはなっていません。このようなことが実現すれば、ドナー不足が解消される可能性があります。また、臨床的な膵島移植でも、将来膵島細胞に分化・増殖する幹細胞あるいは前駆細胞の存在を想定して、完全に純化した膵島だけを移植するのではなく、ある程度他の細胞も混ざった状態で移植した方が長期的に有効なのではないかという考え方もあります。免疫抑制については、患者さん自身の細胞から作った細胞を移植するのでなければ、ある程度の免疫抑制は必要です。また、1型糖尿病の多くは膵島に対する自己免疫疾患ですから、たとえ自分の細胞を元にした場合でも、何かの方法で自己免疫を制御しなければ、移植した膵島は破壊されてしまうと考えられます。 「胎児細胞から採った幹細胞を移植する場合、拒絶反応が少ないと聞いておりますが、免疫抑制剤を投与する必要はないのでしょうか。」とのご質問にお答えします。 一般に、胎児の細胞は成人の細胞に比べて抗原性が低いと考えられており、実際に、何十年も前に男の子を出産したお母さんの骨髄中に、その男の子に由来すると見られる細胞が生着しているのが確認されるなど、胎児の細胞が拒絶されない例が報告されています。但し、抗原性の強さや免疫寛容を誘導する(拒絶反応が起こらないようにする)能力は、胎児の週齢や細胞の種類によっても異なるものと思われます。従って、免疫抑制の必要性については、どのような疾患にどのような細胞を用いるか、それぞれの場合ごとに研究しなければならない事項です。特に、前にも書きましたが、自己免疫疾患である1型糖尿病の治療に用いる場合には、ある程度の免疫抑制は必要であろうと考えられます。
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